従業員の健康を考えた職場環境づくりや対策を講じることで、仕事の生産性がアップし、無駄な人件費や医療費のコストダウンにつながることができます。企業ブランドの価値向上による業績アップや人材離れを防いで、有能な人材を確保できる健康経営を目指しましょう。
1.生産性の向上
企業における健康経営とは、文字通り、企業の財務状態が健全で業績が良好であることを指す一方で、従業員が健康的に働けるような環境を整える経営を行うことでもあります。特に近年では後者の意味の健康経営が注目されており、大手企業をはじめ、中小企業やベンチャー企業などでも導入が進められています。健康経営は政府主導の働き方改革にも寄与するものです。
ワークライフバランスの健全化を図り、オーバーワークを防いで従業員が毎日イキイキと働ける環境を整えることが一つの対策になります。これまでの日本では残業するほど仕事を頑張っていると評価されることや自分は帰りたくても周りが残っていると定時であがれないといった風潮がありました。
さらに人材不足の影響で仕事に忙殺されて、夜中まで働いて終電やタクシーで帰り、朝イチで出勤することを繰り返している人も少なくありません。ですが、人間には限界があります。毎日多忙で睡眠時間も削られ、食事も満足に取れないような状態が続けば、仕事でミスが増え、寝不足で頭が回らなくなって午前中は仕事の効率が上がらないなどの弊害が起きます。
始業時間から仕事が思うようにはかどらない結果、夕方くらいになって、ようやく仕事が手につくようになり、結果として仕事が残って残業につながるという悪循環が生じてしまうケースも少なくありません。つまり、長く会社にいるだけで、実は仕事の中身が伴っておらず、多くの時間を無駄にしているケースが多いのです。
中には働きすぎでうつ病になったり、体調を崩して入院したり、休職したり、離職する人も出てきます。となれば、人手が足りなくなったしわ寄せがほかの従業員に寄せられ、またまた残業が増えるという悪循環のループが始まってしまいます。こうした悪循環を断ち切るべく、健康経営の導入が望まれているのです。
仕事は定時までに済ませ、プライベートな時間をしっかり取ってリフレッシュし、睡眠時間もしっかり取れれば、朝から仕事モードがオンになります。生産性を向上させるためにも、従業員のワークライフバランスを改善し、心身ともに健康で仕事モードがしっかりオンされる環境を整えるべき時期にきました。
2.コストダウン
心身ともに健康であれば、仕事の生産性も上がり、効率よく仕事を終わらせることができます。これまで残業をしていたのが、その必要がなくなるばかりか、本来の業務時間中に2倍、3倍の仕事がこなせるかもしれません。
人手不足の時代に手間や労力、求人コストをかけて人を雇う必要もなくなります。残業も減らせるので残業代もカットでき、人件費のコストダウンが可能となるのです。また、働きすぎで病気になって診療を受ける場合や入院することになれば医療費もかかります。
企業における健康保険組合でも深刻化する少子高齢化で医療費がかさんでおり、医療費のコストダウンが叫ばれている中、従業員の健康を維持し、医療費負担をカットすることも企業にとっては重要な課題です。
3.企業ブランド価値の向上
近年は新聞やテレビでの報道だけでなく、ネットニュースやSNSを通じてよい情報も悪い情報も瞬く間に拡散していきます。かつてはメディアが主な情報発信源でしたが、今の時代は国民のすべてがネットで気軽に意見を出すことが可能となりました。
元従業員からブラック企業であると告発されることや現役の従業員が声をあげることも考えられます。
従業員の過労死やうつ病などによる自殺などの報道はもちろん、ブラック企業のレッテルを貼られると、企業のブランド価値は失墜し、不買運動が起こる場合や新卒や中途採用の応募者がいなくなるといった深刻な事態にも陥りかねません。
一方で、働き方改革の取り組みや健康管理対策などを講じるとすぐにお手本企業などとして報道され、企業のブランド価値の向上につながることもあります。たとえば、長時間のデスクワークによる腰痛や肩こり改善のために体に優しいオフィスチェアやデスクを導入する、いつでも好きなときに利用できるお昼寝スペースやマッサージチェア、筋トレマシンなどを置くといった企業も出てきました。社員食堂や食事面の改革に取り組む企業も増えています。
朝食を食べてこない従業員が多いのを知り、朝からバナナやおかゆなどを無料で提供し、朝からしっかりエネルギーチャージをして生産性を向上させるといた企業もあります。悪いニュースはすぐに広まって企業のブランド価値を下げる一方、健康によい取り組みや従業員の体のことを考えたよい取り組みもすぐに報道され、企業のブランド価値向上へと結び付くのです。
企業のブランドイメージがよくなると商品やサービスを利用する人が増える場合や働きたいと応募する人も増えます。企業の業績向上や、人手不足の時代に人材確保に有利に働きます。
4.優良な人材離れを防ぐ
とはいえ、企業や各職場では温度差があるのも事実です。働き方改革やワークライフバランスを整える対策を講じている企業や職場が少しずつ増えている一方で、昔から変わらない体制で残業や休日出勤を強いる企業やワンオペをさせているブラック企業やグレー企業も少なくありません。
ですが、情報がすぐに広まる中、この企業では自分の体や精神状態が持たないと考えれば、会社を辞めて独立する人や転職する人も増えます。特に優良な人材ほど転職がしやすいので、能力の劣る残された人材では企業の生産性や効率がどんどん落ちる結果になってしまいます。有能な人材流出を防ぐためにも、働けば働くほどよいと評価される日本の会社の在り方を見直す時がきているのです。
5.労働&生活習慣の改善で健康的に
これまで健康管理は従業員自身が行うもので、企業はノータッチというのが基本スタイルでした。ですが、生活習慣病の予防や改善のために40歳以上の従業員については、年に一度特定健診を受診させ、生活習慣の改善が必要な方については保健師や管理栄養士による生活習慣の指導や食事指導などの特定保健指導を受けさせなくてはなりません。
もっとも、多くの社会人が40歳になるまでの間に生活習慣病のリスクにさらされています。学生から社会人になって忙しくて食べる時間や食生活が不規則になることや接待などでお酒を飲む機会が増える一方で、運動する時間がなくなり、10kg、20キkgと体重が増えてしまう人は少なくないのです。
そこで、企業の中には福利厚生としての従来の甘いおやつに代えて、野菜スティックや果物、ヨーグルトなどを自由に食べられるようにする場合や社員食堂のメニューにカロリーや塩分、脂質などの表示を行い、ヘルシーメニューを設けるところも増えてきました。
画期的な取り組みとして、若手社員が揚げ物を食べる割合が高いことをリサーチし、社員食堂の揚げ物定食は100円の値上げ、青魚定食や野菜たっぷりのメニューは150円の値下げに踏み切る企業もあります。
また、万歩計アプリを導入し、ランチタイムなどにウォーキングをして月単位で目標を達成すると健康手当を支給するというユニークな取り組みを実施している企業もあります。残業を廃止し、1日の疲れをしっかりリセットしたうえで、朝から仕事モードで効率よく働きながら、食事や運動も採り入れる職場改革で労働&生活習慣の改善による健康経営を目指したいものです。